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ユウヤの場合 [ミニ小説]

同じメンツかと疑うくらい、女って生き物は合コンで同じセリフを吐く。
「ユウヤくんてモテるでしょう?」「本当に彼女いないの?」

最初は興味津々で、俺がアクションを起こさないとわかるとさっさと席を離れる。

当たり前か。

大体、いざつきあうとどんなカワイイ女でも、卑屈になるか威たけ高になるかどちらかだ。

もう帰るかな、と先にトイレへ向かおうとしたところに、1人の女が遅れてやってきた。

特別美人、というわけでもないのに、やたら場が華やいだ気がした。そんな雰囲気に圧倒されていると、見る見る彼女は俺のほうに寄ってきて、他の女とは違うセリフを吐いたのだった。

「うわーすごいイケメンが1人いるって聞いてたけど、ほんとキレイな顔」

近距離でまじまじと見られる。俺がのけぞらなければ、キスされてしまいそうな勢いだ。
「私、つねづね思うんですけど、世界イチキレイな女と世界イチキレイな男だったら、ぜーったい世界イチの男のほうがキレイだって。孔雀とかもオスのほうがキレイじゃないですか。」
そう言いながらジャケットをせわしなく脱ぐ彼女に、俺はたずねた。
「もうどこかで、飲んできたんですか?」
その場にいる全員が2、3度ぱちくりとまばたきしたあと、彼女は「私、雰囲気に合わせて酔えるの」と鼻をツンとさせた。
それがチサトだった。

その1週間後、俺はまたチサトに近距離で顔を眺められることになる。

「化粧したい!私、キレイな顔の男性にメイクするのが趣味なの」

半ば強引に彼女の希望を敢行することになったのだが、当日俺の勘違いと彼女の嘘が鮮やかに解消されたのだった。

「女みたいなメイクされるのかと思ったの?ちがうちがう。でもそう思いながらも来たってことは…」
意地悪そうに目を細めるもんだから、今度は俺がちがうちがうと頭を振る。

そして彼女の嘘とは、これが趣味ではなく仕事だったということだ。チサトはヘアメイクの仕事をしているのだった。俺は、急に辞めてしまったモデルの代役というわけだ。

「だって仕事だって言ったら来なかったでしょぅ?」

「ねね、やっぱりちょっと口紅つけていい?」
チサトは表情でセリフがわかる女性だと思った。

「女性モデルでもいけそー。どぉ?」
鏡を見ると、どこかで見た容貌が浮かび上がる。

「おかんに似てる…」
俺たちは腹をかかえて大笑いした。

最初で最後のモデルの仕事だった。
今、チサトは男女どちらと顔をあわせているのだろう。

帰ったら聞いてみよう。ワインでもあけながら…チサトは明日休みだといっていたから。
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