SSブログ

ナツミの場合 [ミニ小説]

「俺、ナツミといると自分が情けなくなるんだ。」

ひぇーっ

「フラれた。」
気がついたら携帯アドレスの一番はじめの番号を押していた。
「また?どうして?」
「また同じ手口だよ~」

「手口ってさ…詐欺じゃないんだから」
アツシは大学時代からの男友達だ。最初の失恋話を聞いてくれてから、なんだかんだこうした報告が習慣になっている。
「こう何回もあったら、ある意味手口!集団詐欺だ!」
「頼むからあんまり飲むなよ~」

「今度の人はさぁ、ばっちり好みだったのよ、背がスラッと高くてさ、メガネが似合うインテリでさぁ~」
「インテリくんでもナツミが理解できなかった、てわけだ。そりゃいつものパターンだな」
「手口!」
キッとアツシをにらみ返すと、そばに目が覚めるほどの美人が立っていた。
「アツシ、なにしてんのよ」

「え、えぇぇ」
いきなり平手打ちされたアツシが私のほうになだれ込んできた。この美人はなかなか腕っ節が強いようだ。
「私との約束ドタキャンして女と会ってんだ?サイテー!」

「…いっちゃった…よ。アツシ、追いかけないと!」
アツシは痛そうに頬をおさえながら、「いいよ」といわんばかりに反対の手をひらひらさせた。

「アツシもフラれちゃったねぇ」
「言っとくけど。俺フラれんのめったにないからね」
そういえばアツシの失恋話は聞いたことがない。
「なんかアツシって美人ばっかりにモテるよね。今の子もそうだし、その前も。なんかコツあるの?」
「美人くどくコツ、女が聞いてどうすんだよ」
「いやー参考までに、ね。教えてよ、美人をおとす手口。」
すると、たたかれた側で頬杖をつきながら。
「迷わせないことかな」とつぶやいた。
「迷わせない?」
「そ。女って迷うからさ。迷う前にあーしろこーしろって指示すんの」
「へーへー」
本気で感嘆した。そんな理由、スルリと出てくるなんて思いもよらなかったのだ。

でもふと自分自身に返してみる。
「ああーでも私、迷わないなぁ」
「そうだなぁ。ナツミは愚痴はこぼすけど迷わないよな」
「男っぽいのかなぁ」
「うーん、ナツミはー男っぽい女じゃなくて、女っぽい男なんだよ。たぶん。」
言いえて妙、とまた感心しそうになるのをハッとわれに返す。
「男ってこと?」
「そう、たぶん。だからナツミにはさっき言った手口は使えない。」
ん?

どのくらい沈黙が続いただろう。私の頭の中はからっぽ、だ。
「言い方かえよっか。」
うん。わけがわからないまま頷いてみる。
「さっきさ、好みの話してたじゃん。背がスラッと高くてメガネでインテリで、て。」
うん。
「俺、けっこういい線いっていると思うんだけど」
うん。

…ひえーっ

「前さ、女には迷わせないって言ってたじゃん」
「うん」
アツシが頷く。
「私みたいなタイプにはどうするの?」
すると頬杖をつきながら。

「考えさせて、気づかせる」
またスルリと答えた。
そんな手口、らしい。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:テレビ

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。