ユリの場合 [ミニ小説]
「はやく結婚してくれればいいのに」
ユリと3つ下のゴロウとは、くされ縁でなんだかんだ3年越しの仲になる。
「ユリ先輩って彼氏いるんですか?」
よくある質問に、やっぱり同じような間があき、やっぱりこう答える。
「いるようないないような…」
「オトナのカンケイってやつですね!」
若い後輩たちは目をキラキラさせながら声をはずませるけれど、それほど色っぽくもなく深刻でもないのが、ゴロウと私のカンケイである。
たしかに最初は結婚も意識したはずだった。
だが、男女にはよくあるハプニングで一瞬深刻になってしまった時から一定のギクシャク感を保ちつつ、男女カンケイを続けている。
この3年間、なんとなく二重生活をしているような、うしろめたい気持ちは、絶対にこのカンケイのせいなのだ。
「ゴロウさんに先に結婚してほしい、て複雑すぎてわかんないなぁ~」
というナツミは、会社の後輩である。他の女子と違って、サッパリしていつつも情深いところが魅力で、ときどきこうして会社帰りに飲み屋に立ち寄ったりしている。
「そりゃあなたにはわかんないでしょうな。」
ナツミがプーッと頬を膨らませる。そう言い放つ隣の美青年は、ナツミの彼氏のアツシだ。ずっと友達同士だった2人は最近つきあいはじめたらしい。
「で、結局のところユリさんはゴロウさんが好きなんですか?」
アツシがゆっくり聞いてきた。
「えっ」
「そこにつきると思うんですよね。」
今まではナツミとアツシ、交互に見ていたが、このセリフが同時に<2人に>向き合うきっかけとなった。
「好き、なんだけど、もう会いたくない」
「えー」
2人がいっぺんにのけぞった。夫婦漫才のようだ。俄然うらやましくなる。
「わーん!もう出会っちゃったって感じなんだよぅ。知り合わなかったらよかった。記憶から消えればいいのに!」
「ユリさんっ」
ナツミがなぜか涙ぐんでいた。
「ユリさんはそうやって抑えていたんですねっ!いつもクールだし、なんとなく私たちの一段上にいるような気がして一歩踏み込めなかったんですけど…ワタシ!応援します!」
「ナツミっ」「ユリさんっ」
漫才トリオになってしまった。
「クリスマスはどうするんですか?」
いや、アツシは加わっていなかった、ようだ。
「ユリさん、ゴロウさんてアツシみたいなんじゃないですか?クールで…鼻持ちならない…」
「なんだ、その鼻持ちならないってのは…」
やっぱりこれがコンビなんだな、結局。
クリスマスはこれといって約束しない。前後に会ったり、会わなかったり。会っても特別なことはしない。今年もそのうちのどれかだろう。
「コトシハクリスマスニイッショニスゴセマスカ」
送信。思惑は違えど、2人が「誘ってみれば」と言ったからである。
「いいけど、なぜ…カタカナ?」
「ユリさんて…深刻になるのが苦手なんですね」
「そう!アツシくん、そうなの!よくわかったね!すごい!」
照れる様子もなく、アツシはこう続けた。
「誰でも深刻、ていやだろうけど、真剣にはならなきゃなと思うんですよ」
ゴロウとの3年間が一気に頭をかけめぐる。一瞬だった。もう何の言葉も思いもなかった。
クリスマスもいつのまにか過ぎて今日は26日だ。
「ユリさんは結局1人で過ごしたみたい」
ナツミがケーキをほおばりながら言った。
「そっか」
ナツミが食べているのは2日越しのケーキだ。旬を過ぎたケーキの苦味でクリスマスが終わったことを感じたいんだろう。
そしてユリさんは、次に会ったとき、きっとすっきりしているんだろう。
こういうことはわかるのだ。
これは、アツシの場合。
ユリと3つ下のゴロウとは、くされ縁でなんだかんだ3年越しの仲になる。
「ユリ先輩って彼氏いるんですか?」
よくある質問に、やっぱり同じような間があき、やっぱりこう答える。
「いるようないないような…」
「オトナのカンケイってやつですね!」
若い後輩たちは目をキラキラさせながら声をはずませるけれど、それほど色っぽくもなく深刻でもないのが、ゴロウと私のカンケイである。
たしかに最初は結婚も意識したはずだった。
だが、男女にはよくあるハプニングで一瞬深刻になってしまった時から一定のギクシャク感を保ちつつ、男女カンケイを続けている。
この3年間、なんとなく二重生活をしているような、うしろめたい気持ちは、絶対にこのカンケイのせいなのだ。
「ゴロウさんに先に結婚してほしい、て複雑すぎてわかんないなぁ~」
というナツミは、会社の後輩である。他の女子と違って、サッパリしていつつも情深いところが魅力で、ときどきこうして会社帰りに飲み屋に立ち寄ったりしている。
「そりゃあなたにはわかんないでしょうな。」
ナツミがプーッと頬を膨らませる。そう言い放つ隣の美青年は、ナツミの彼氏のアツシだ。ずっと友達同士だった2人は最近つきあいはじめたらしい。
「で、結局のところユリさんはゴロウさんが好きなんですか?」
アツシがゆっくり聞いてきた。
「えっ」
「そこにつきると思うんですよね。」
今まではナツミとアツシ、交互に見ていたが、このセリフが同時に<2人に>向き合うきっかけとなった。
「好き、なんだけど、もう会いたくない」
「えー」
2人がいっぺんにのけぞった。夫婦漫才のようだ。俄然うらやましくなる。
「わーん!もう出会っちゃったって感じなんだよぅ。知り合わなかったらよかった。記憶から消えればいいのに!」
「ユリさんっ」
ナツミがなぜか涙ぐんでいた。
「ユリさんはそうやって抑えていたんですねっ!いつもクールだし、なんとなく私たちの一段上にいるような気がして一歩踏み込めなかったんですけど…ワタシ!応援します!」
「ナツミっ」「ユリさんっ」
漫才トリオになってしまった。
「クリスマスはどうするんですか?」
いや、アツシは加わっていなかった、ようだ。
「ユリさん、ゴロウさんてアツシみたいなんじゃないですか?クールで…鼻持ちならない…」
「なんだ、その鼻持ちならないってのは…」
やっぱりこれがコンビなんだな、結局。
クリスマスはこれといって約束しない。前後に会ったり、会わなかったり。会っても特別なことはしない。今年もそのうちのどれかだろう。
「コトシハクリスマスニイッショニスゴセマスカ」
送信。思惑は違えど、2人が「誘ってみれば」と言ったからである。
「いいけど、なぜ…カタカナ?」
「ユリさんて…深刻になるのが苦手なんですね」
「そう!アツシくん、そうなの!よくわかったね!すごい!」
照れる様子もなく、アツシはこう続けた。
「誰でも深刻、ていやだろうけど、真剣にはならなきゃなと思うんですよ」
ゴロウとの3年間が一気に頭をかけめぐる。一瞬だった。もう何の言葉も思いもなかった。
クリスマスもいつのまにか過ぎて今日は26日だ。
「ユリさんは結局1人で過ごしたみたい」
ナツミがケーキをほおばりながら言った。
「そっか」
ナツミが食べているのは2日越しのケーキだ。旬を過ぎたケーキの苦味でクリスマスが終わったことを感じたいんだろう。
そしてユリさんは、次に会ったとき、きっとすっきりしているんだろう。
こういうことはわかるのだ。
これは、アツシの場合。
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