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ゴロウの場合 [ミニ小説]

「コトシハクリスマスニイッショニスゴセマスカ」

ユリからメールが来たのはクリスマスイブの3日前だった。こんなとき、恋人同士ならどんな気持ちになるんだろうか。いや、恋人同士だったらこんな確認はしないだろう。

広い意味で言うなら、ユリは「恋人」の部類になる。ただ厳密に言うと、今は違う。

「メール?」
テレビに夢中になっていたはずのユウコが携帯をのぞきこむようにして寄ってきた。
「ああ」
ごく自然に俺は携帯をポケットにしまう。ユウコも自然にスルリと離れ、今度はクリクリと見つめながら聞いてきた。
「クリスマスはどこかに食べに行く?私、イタリアンがいいな。」
「ああ…そだね。駅前のあそこなら混んでいないだろ。」
「なんか、投げやり。」
とユウコはクッションにパンチを入れる。
「クリスマスとかはさ、特別なことをやらなくていいんだよ。日本人はさ。」
「やだなーその冷めた風。今は、逆に素直にベタに過ごすのがいいんだよ。」
また自然に擦り寄ってきたので、俺は今度は素直にユウコを受け入れる。

1ヶ月くらい前、ユウコは胸のところまであった髪をばっさりと切った。そういえば、それからなんとなく変わった、気がする。そのときは、冬をむかえるこの時期に、どういう心境の変化なのだろうと不思議に思っただけだった。

もっとも今はユリの心境の変化のほうが気になる。ユリも俺と同じようにクリスマスやバレンタインデーといった浮ついたイベントを間に受ける感覚はないと思っていたが…。

「イマカライコウカ?」
ユリに合わせてカタカナで送ってはみたが、数分後にはすっかり後悔している自分がいた。気がつくと、いつのまにかユウコが隣にいた。
「オンナノヒト?」
そうだ、髪を切ってからのユウコは、昔飼っていた猫に似ているのだ。もともと妙な色気はあったが、今は凄みすら感じて恐ろしいほどだ。

ユウコのような女は、恋愛カンケイ以外につきあえないタイプだろう。だから言い方は悪いが、タイミングさえあえば後先考えず男と女のカンケイになっておこうと思う。いや、思った。

「いつから、気づいてた?」
「…1ヶ月くらい前。」
ユウコの前髪と瞳が揺れた。

もともと望んだ通りに、俺は1人でクリスマスを過ごした。いや、普段の生活と変わらず過ごしたと言おう。ユリから返事はなかった。そういえば、最初のメールにちゃんと返事をしていないのは俺のほうだ。

タイミングさえあえば─ユリの場合は、そうじゃない。だけど、今もやっぱりそのタイミングじゃないんだ。
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